三日坊主の三年日記

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乃木坂46から生駒里奈が卒業するということ

アイドルグループ 乃木坂46

彼女らは、2011年にAKB48の公式ライバルとして誕生した。あれから7年。レコード大賞を受賞し、シングルはミリオンヒット、各メンバーは雑誌専属モデルに起用され、舞台や映画やテレビに引っ張りだこ、写真集は出せば爆売れ。まさに今、飛ぶ鳥を落とす勢いで活躍する彼女らは、名実ともにAKB48というトップアイドルに追いつきつつある。もはや比べることが憚られるほど、乃木坂46は独自の世界観で人々を魅了している。

 

そして今、そんな破竹の快進撃を続けている乃木坂46から、1人のメンバーが卒業しようとしている。

 

生駒里奈だ。

 

彼女は一期生として乃木坂46に合格し、デビューシングルから5作連続でセンターを務めた。彼女は乃木坂46の「顔」となり、グループを支え、引っ張ってきた。

 

私が生駒に出会ったのは、高校2年のときだ。当時AKB48のにわかファンを務めていた私は、部活仲間とカラオケでAKBのPVをパロるなどして青春を謳歌していた。AKB関連の情報はわりかしまめにチェックしていたため、乃木坂46を知るのは当然の流れだった。

 

「センターは生駒里奈という、特別抜きん出てかわいいわけではない普通の女の子なんやね、うん、、、やっぱ俄然宮澤佐江やろ、うん」

 

こうして私は、乃木坂46の誕生を知りながら生駒の写真を一瞥し、華麗にスルーすることとなった。メンバーに興味はなかったものの、楽曲は評価していたためたまに聴くなどはしていたのだが。

 

そして大学生になったある日。

YouTubeを漁っていた私の目に止まったのは、生駒里奈ではなく、メンバーの一人である生田絵梨花だった。だし巻き卵を作るという企画だったのだが、この女はなんとIHコンロに直接溶き卵を流し、そこに昆布や煮干といっただしを置き始めたのだ。そのヒステリックさと顔のかわいさのギャップに、私は瞬時に心を奪われてしまった。

これをきっかけに私は乃木坂46というグループを強く意識するようになり、同時に生駒里奈に惹かれるようになるのも必然であった。

 

 

乃木坂46における生駒の歴史の中で特に印象深かったシーンがふたつある。

 

ひとつは、生駒が6枚目のシングルで初めてセンターではなくなったときだ。

乃木坂46冠番組内で選抜メンバーが発表され、生駒に替わり白石麻衣が新センターに抜擢された。生駒や白石はもちろん、他のメンバーも涙を流していた。

なぜか。

それは、生駒が自分には相応しくないと自らを責め続けながら、センターポジションという重圧を背負ってきたからだ。メンバーもそれを痛いほど知っていた。しかしセンターから外れた瞬間、生駒の中に初めて、悔しいという感情が芽生えた。安心や悔しさや様々な感情が入り混じり、生駒は泣いた。

デビュー当時からずっと、世間から厳しい声を浴びせられ、毎日泣き続けて夜を明かした。彼女は、怪物級の人気を誇ったAKB48の公式ライバルとして誕生したグループのセンターという、少女には重すぎる荷物を突如背負わされた。そして、右も左もわからないままがむしゃらに頑張り続けた。その重圧から、ようやく解放されたのだった。

ひとりの女の子が、こんなに極限まで追い込まれてしまうのか。私は唖然としながらも、それでも前を向いてアイドルとして輝く彼女にますます心を虜にされていった。

 

もうひとつのシーンは、生駒がAKB48選抜総選挙に参加するときのことだ。

生駒は一時期、乃木坂46AKB48チームBを兼任していた。二つのグループを兼任するということは、楽曲やダンスを覚える量が飛躍的に増えたり、公演やイベントなどでスケジュールがより過密になったりなど、かなり負担が大きい。しかし彼女は、乃木坂46をもっといいグループにしたいという強い思いがあったからこそ、自らが成長するための道を選んだ。

そして、AKB48のメンバーであれば避けては通ることのできないイベントに、彼女も巻き込まれることとなる。選抜総選挙だ。ファンの投票によってシングル選抜メンバーを決めるこの一大イベントは、メンバーにとってはチャンスを掴みとる可能性のある場でもあり、精神的負担の大きい場でもある。AKB48ファンにとってのある種闘いである選抜総選挙生駒里奈が参加するということは、公式ライバルである乃木坂46から単体で戦場に乗り込むということであった。これほど残酷なこともなかなかない。

また、生駒がAKB48と兼任するということは、乃木坂46のメンバーにとっても衝撃だった。なぜライバルグループのメンバーとして活動するのかと、受け入れられないメンバーもいた。

繊細な生駒は、そんなメンバーの複雑な心情を感じ取り、ホームであった乃木坂46として活動するときでさえ孤独を感じてしまっていた。

しかし選抜総選挙は刻一刻と迫る中、疲弊しながらも過酷なスケジュールをこなしていく生駒。選挙のために、ティッシュ配りという地道なアピール活動も一人で行った。

そんな折、乃木坂46冠番組の中で生駒里奈総選挙応援企画が放送された。そこには、メンバー全員が生駒の知らないところでティッシュ配りをする様子が映し出された。当初は複雑な思いを感じていたものの、必死に頑張る生駒の姿に心動かされ、メンバーはみな生駒を支えたいと思うようになっていた。そして、具体的な応援をしようと白石麻衣がメンバーに発信し、動いたのだ。乃木坂46ですらもどこか居づらさを感じていた生駒にとって、メンバーの激励は強く胸を打ったに違いない。

そうして、生駒は選抜総選挙で見事選抜入りを果たした。生駒の乃木坂46への愛、メンバーの生駒への愛をひしひしと感じた出来事だった。

 

 

生駒がセンターから外れてから、乃木坂46はセンターを固定せずに様々なメンバーを抜擢した。それは、乃木坂46の人気が上昇するとともにメンバーひとりひとりの知名度を上昇させることにも繋がったように思う。中には、入って間もない二期生の堀未央奈が突然センターを任されたこともあった。最近では三期生の与田祐希大園桃子も、活動を開始して間もなくセンターに選ばれている。そんなセンターを初めて経験するメンバーの不安や苦しみを一番理解し、寄り添うことができたのもまた、生駒だったのではないだろうか。

彼女自身、センターから降りた後は選抜メンバーの後列として存在感を発揮し続けた。肩の荷が下りた彼女は、自分らしい輝き方により一層磨きをかけたようだった。AKB48との兼任を終了した後のシングルで、生駒は久し振りにセンターに選ばれた。そこには、かつてのどこか儚げでぽっきりと折れてしまいそうだった初期の生駒はいなかった。様々な立ち位置や経験を糧に、堂々と真ん中に立つ生駒の姿は、自信に満ち溢れていたように思う。乃木坂46の大躍進の陰には、グループの「顔」でありながらメンバーの「心の柱」であった生駒里奈という存在が、とてつもなく大きな役割を果たしていたに違いない。

 

 

そんな、もはや伝説的メンバーとなった生駒が、ついに卒業を発表した。乃木坂46では今まで、深川麻衣橋本奈々未など人気メンバーが卒業する際には、卒業シングルとして最後に彼女らがセンターに立つという流れがあった。そのシングルは卒業メンバーのアイドルとしての最後の晴れ姿であり、乃木坂46の代表曲ともなった。それと同時に、そのセンター卒業後のライブでその曲を披露する際にはもちろん別のメンバーがセンターを務めることとなり、寂しさを感じてしまうという側面もあった。生駒里奈が卒業することになったとき、ファンの誰もが、次のシングルは生駒がセンターに立つ卒業曲になるだろうと予想したのではないだろうか。しかし、生駒が参加するラストシングルである「シンクロニシティ」でセンターを務めることとなったのは、白石麻衣だった。なんと、生駒は卒業シングルのセンターを打診されていたにも関わらず、断ったのだという。生駒は、乃木坂46の曲が「生駒里奈の卒業曲」となることを嫌がったのだ。

ここにも、生駒の乃木坂46に対する深い思いが込められているように思う。決して自分が前に出ることを望まず、常にグループとしてどうあるべきか、自分はグループのためにどうすべきかを考え続けてきた生駒の信念が垣間見えた。

当初から、生駒はずっとこの姿勢を貫いてきた。他のメンバーが泣き言を吐いているときには、率先して声をかけ支えた。自らもセンターとしての重圧を背負いながらだ。AKB48との兼任を決めたのも、乃木坂46のためだった。

このような、生駒の乃木坂46に対する溢れんばかりの愛こそが、生駒がメンバーやファンに愛される何よりもの証拠なのだろう。

 

 

先日、日本武道館にて生駒里奈の卒業ライブが行われた。アイドルとして歌って踊る生駒を最後に目に焼き付けようと、多くのファンが駆けつけた。チケットは約30倍の倍率となり、全国の映画館でのライブビューイングも即座に満席となる異例っぷりだった。

生駒は、ライブ後のインタビューにてこう述べている。

「すごいすっきりって感じ。ああ〜〜〜〜〜〜って感じ。やりきるっていうことはこういうことなんじゃないかなと思いました。」

 

この言葉を聞いて、私は涙が溢れた。

苦しくて苦しくて心身ともに追い込まれたセンター時代から、センターから外れたことで吹っ切れ、自らも輝きながらメンバーを支え、引っ張ってきた生駒。決して華やかなだけではなかった生駒のアイドル人生が、生駒の中で堂々と清々しく完結してくれたことが、何よりも嬉しかった。

 

乃木坂46とは、まさしく生駒里奈の紡いできた軌跡だと思う。乃木坂46を通して、ひとりの「生駒里奈」という少女の物語を、私たちはみてきた。その物語の中で、苦しみも、嬉しさも共有してくれた彼女に、心から感謝したい。

アイドルを卒業し、新たな自らの目標に向かって歩み出す彼女に、心からの労いと祝福とエールを贈りたい。

アイドルでいてくれて、ありがとう。

乃木坂46にいてくれて、ありがとう。

乃木坂46を愛してくれて、ありがとう。

 

乃木坂46のためにすべてを捧げてきたのだから、これからは自分のために、自分の人生を心から楽しんでほしい。

 

生駒里奈とともにあった乃木坂46は今、ひとつの時代を終える。もうこれからは、乃木坂46に生駒の姿はない。三期生が加入してからますます選抜争いも激しくなっている。しかし、乃木坂46はこれからも輝きを増し続けていくに違いない。それは、生駒の魂が、メンバーの心に、ファンの心に生き続けるからだ。生駒が残した乃木坂46への愛はみんなに刻まれ、受け継がれていくことだろう。

 

乃木坂46から生駒里奈が卒業するということ。

それは、ひとつの時代の終焉であり、新たな始まりでもあるのだ。

生駒里奈にとっても。乃木坂46にとっても。

私たちはどうやら、まだまだ彼女たちの物語から、目が離せないようである。