僕は、伊坂幸太郎という作家がすきだ。
彼の紡ぐ物語には、序盤から数々の伏線が散りばめられている。
とちょっと大げさに言ってみたが、彼の作品の一番の推しポイントは、
『重力ピエロ』や『アヒルと鴨のコインロッカー』といった有名どころも大好きなのだが、僕のイチオシは、『
「俺たちは奇跡を起こすんだ」
独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、
なぜか憎めない男、陣内。 彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。 何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、
予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、 心温まる連作短編の傑作。
『チルドレン』は別々の視点から描かれる5つの短編からなっており、全てに「
陣内は、非行に走った少年少女と関わる「家裁調査官」という仕事をしている。
この男がとんでもなく曲者で、厄介で自己中で、
作中で、僕の大好きなシーンがある。
居酒屋で飲んでいた陣内の隣の席で、「少年法はなってない」
彼らは、
「俺たちは奇跡を起こすんだ」
「少年の健全な育成とか、平和な家庭生活とか、
少年法とか家事審判法の目的なんて、全部嘘でさ、 どうでもいいんだ。俺たちの目的は、奇跡を起こすこと、それだ」
「駄目な少年は駄目なんだろ。あんたたちはそう言った。
絶対に更生しないってな。地球の自転が止まることがあっても、 温暖化が奇跡的に止まっても、 癌の特効薬ができることがあっても、スティーブン・ セガールが悪役に負けることがあっても、 非行少年が更生することはない。そう断言した」
「それを俺たちはやってみせるんだよ」
「俺たちは奇跡をやってみせるってわけだ。ところで、
あんたたちの仕事では、奇跡は起こせるのか?」
なんとも痛快なセリフ。
このセリフを読んだとき僕は、そうだよなあと唸ってしまった。
どうせ働くのであれば、こんな社会であってほしいとか、
どうせやるんだったら、奇跡を起こしてみたい。
では、僕が仕事や人生を通して起こしたい奇跡とは、
***
先日、僕が携わる冒険遊び場にて、「こども商店街」
(冒険遊び場についてはこちらへ)
(僕が関わらせていただいている団体はこちら)
NPO法人PLAYTANKは、
この「こども商店街」というイベントは、
木材、トンカチ、釘、ノコギリ、スコップ、ペンキ、
運営側としては、普段の遊びの延長として捉えており、
とはいえ僕らにとっても、こどもたちにとっても、
すべり台付きの展望台、映画館、木登り屋、雑貨屋、クイズ屋、
この日だけの仮想通貨「あっそびー」を稼ぐため、
保護者の手助けは極力しないようにお願いしているので、
加えて今年は、神社や交番、バス停、花屋、ポスト、
街のそこら中にこどもたちの小さなこだわりが散りばめられており、
基本的に冒険遊び場には、
彼らは普段、こどもたちと共に思いっきり遊んだり、
こどもたちにとっては、親や先生のようなタテの関係でもなく、
このこども商店街においても、
僕は今回、学生プレーリーダーとして、
その中で印象的な出来事があったので、
僕は全体的にいろんな子と関わりながら、
彼はこのこども商店街で、
途中強風で建物が倒れかけたり、
彼はほぼ一人で建てていたので、
「ここ押さえてろ!」と不器用に言ってくるので、「
実態としては、僕を散々働かせたあげく100あっそびーしかくれないブラックな雇用
そんな反面、
ステージを作りながら、「お客さんきてくれるかな〜」
それもむりはない。こども商店街には、
それに加えて彼は今年が初参加であり、お店はドラムのステージなので本番に全てが懸かっている。
彼同様、僕もどきどきしながら本番を迎えた。
いよいよ当日の朝。
僕が会場に到着すると、彼は持参した手作りのドラムをステージにセットしていた。
僕を見つけるやいなや、ダンボールで作ったマイクを僕にいきなり500あっそびーで売りつけ、「バイト代出すから歌って!」と言ってきた。いいだろう、望むところだ。
彼は開演1分前に、「もう1分後に始まる!お客さん呼ばなきゃ!
必死で大声を出して呼び込みをし、少しお客さんが集まったところで、
曲目は、「世界に一つだけの花」。
彼がドラムを叩き、僕が歌う。
誰もが知っているその曲に、
最初はこわばっていた彼の顔も次第にほぐれ、明るくなっていく。
お客さんのほうからも歌声が聴こえてきた。手拍子をして盛り上げてくれるプレーリーダーの姿がある。
そして演奏がおわると、
アンコールももちろん、「世界に一つだけの花」。
2曲目を終える頃にはもう、
それ以降、
そして彼は、歌い手を取っ替え引っ替えしながら、
僕は、できるだけ多くの人に彼の勇姿を見てもらうこと、
最終的に彼は、演奏後の投げ銭で47,
緊張で泣いていた彼はもう、そこにはいなかった。
ステージを建築しているときの真剣な顔。
商店街をまわり、
演奏中の、心から楽しそうにドラムを叩く顔。
観客からアンコールを浴びているときの、
もらった投げ銭を握りしめているときの、
最後のオークションで、
今日どうだった?と聞くと、「気持ちよかった!!」
僕は、彼のひとつひとつの表情を、この先ずっと忘れないだろう。
たかがこどもたちのお遊びだ、お遊戯会だ、
誰もが子ども時代を経験しているのに、
けれど、あの日あの場所では、間違いなく奇跡が起きていた。
彼が起こした奇跡を、僕は間近で、この目にしかと焼き付けた。
彼の紡ぐ音楽で人々の心が動き、人と人がつながって、
彼の一歩踏み出した勇気が、挑戦が、多くの人に伝わり、
彼の「やりたい!」の気持ちを周りの人が支え、応援し、
決して彼一人では起こせなかったけれど、
自分で掴み取った、大きな大きな自信の勲章。
僕がこの先も見たい奇跡は、きっとこれだ。
まだうまく言葉には言い表せないけれど、きっとこれだ。
年齢や学校、国籍、背景が違っても、
学校では「ちょっと変な子」として扱われてしまったとしても、
どんな人だって、自然体でいれる場所、
ひとりの人間の挑戦が応援されて、支えられて、
それぞれのやりたい気持ちを最大限尊重して、
そうやって、遊びを通してひとりひとりの中に、「
自分の子どもじゃなくても、地域の大人がみんなで見守りながら、
これって、ものすごく奇跡的なのではないだろうか。
数年後、数十年後に幼き日を思い返すとき、
いや、もしかするとまったく思い出さないのかもしれない。
どちらにしろ、
彼がこの先「やりたい!」
「遊びなんてむだなことだ」「
僕は、遊びの力を信じてみたい。
遊びを通してこどもたちが起こす奇跡を、
しかしまだその奇跡的なものの数々は、
彼以外にも、
もっと多くの人に、
だから僕は、その奇跡的なものたちを、
まだまだ冒険遊び場の知名度は低いし、
プレーリーダーという職業の存在も、
一学生ができることは限られているし、
人生において僕が見たい奇跡が、ぼんやりと、
いつもお世話になっているあそびっこのみなさま、
陰で支えてくださっている地域の大人のみなさま、
今後とも、よろしくお願いします。
さて、あなたが起こしたい奇跡は、何でしょうか。
あなたがあなたの人生で見たい景色は、何でしょうか。
こっそり僕に教えてくれたら、