三日坊主の三年日記

人生を、おもしろく

僕が見たい奇跡 〜とある冒険遊び場での出来事〜

僕は、伊坂幸太郎という作家がすきだ。

彼の紡ぐ物語には、序盤から数々の伏線が散りばめられている。それらが終盤に向かうにつれて一気に回収され、最後には大どんでん返しが巻き起こり、難解なジグソーパズルがぴたっとはまるような爽快感に包まれる。

 

とちょっと大げさに言ってみたが、彼の作品の一番の推しポイントは、理不尽なことや悲しいことがたくさん蔓延るこの世の中にも、それらをぽーんと軽快に跳び越してしまうような優しさや希望だってたしかにあるよなぁと思えるところだ。

 

『重力ピエロ』や『アヒルと鴨のコインロッカー』といった有名どころも大好きなのだが、僕のイチオシは、『チルドレン』という作品だ。

 

「俺たちは奇跡を起こすんだ」

独自の正義感を持ち、いつも周囲を自分のペースに引き込むが、なぜか憎めない男、陣内。彼を中心にして起こる不思議な事件の数々――。

何気ない日常に起こった5つの物語が、1つになったとき、予想もしない奇跡が降り注ぐ。ちょっとファニーで、心温まる連作短編の傑作。 

Amazon内容紹介より

 

 

『チルドレン』は別々の視点から描かれる5つの短編からなっており、全てに「陣内」という男が登場する。

陣内は、非行に走った少年少女と関わる「家裁調査官」という仕事をしている。

この男がとんでもなく曲者で、厄介で自己中で、それでいて人間味に溢れていてとにかく最高なのだ。

 

作中で、僕の大好きなシーンがある。

 

居酒屋で飲んでいた陣内の隣の席で、「少年法はなってない」と愚痴をこぼす中年男性たちがいた。

彼らは、隣の陣内が家裁調査官だとわかると、「少年院に何度も通うガキとかもいるんだろ、駄目なガキは駄目なんだよ」「非行少年が更生するなんて、ドラマじゃねえんだから」と絡んでくる。そこで陣内は、こんな言葉を放つ。

 

 「俺たちは奇跡を起こすんだ」

 

「少年の健全な育成とか、平和な家庭生活とか、少年法とか家事審判法の目的なんて、全部嘘でさ、どうでもいいんだ。俺たちの目的は、奇跡を起こすこと、それだ」

 

「駄目な少年は駄目なんだろ。あんたたちはそう言った。絶対に更生しないってな。地球の自転が止まることがあっても、温暖化が奇跡的に止まっても、癌の特効薬ができることがあっても、スティーブン・セガールが悪役に負けることがあっても、非行少年が更生することはない。そう断言した」

 

「それを俺たちはやってみせるんだよ」

「俺たちは奇跡をやってみせるってわけだ。ところで、あんたたちの仕事では、奇跡は起こせるのか?」

 

なんとも痛快なセリフ。陣内の豪快さとかっこよさがここにぎゅっと凝縮されている。 

 

 

このセリフを読んだとき僕は、そうだよなあと唸ってしまった。

どうせ働くのであれば、こんな社会であってほしいとか、こんな人たちに届けたいとか、自分の願いを仕事に込めたい。

どうせやるんだったら、奇跡を起こしてみたい。普通じゃ考えられないような出来事が起こる瞬間を、この目で見てみたい。

 

では、僕が仕事や人生を通して起こしたい奇跡とは、一体なんだろうか。

 

 

 

 

***

 

 

 

先日、僕が携わる冒険遊び場にて、「こども商店街」が開催された。

 

(冒険遊び場についてはこちらへ)

bouken-asobiba.org

 

 

(僕が関わらせていただいている団体はこちら)

asobikkonet.com

 

 

NPO法人PLAYTANKは、練馬区内で冒険遊び場や学童などを運営している団体である。

この「こども商店街」というイベントは、普段から冒険遊び場を開催している都内の公園の一角で、こどもたちが思い思いの店を出店するものだ。

木材、トンカチ、釘、ノコギリ、スコップ、ペンキ、いろんな道具を使い、自分だけのお店を建築する。

運営側としては、普段の遊びの延長として捉えており、こどもたちが遊びで培ったものをたくさんの人に披露したり自慢したりできる日だ。

 

 

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商店街は大賑わい

 

 

とはいえ僕らにとっても、こどもたちにとっても、スペシャルな日。 

すべり台付きの展望台、映画館、木登り屋、雑貨屋、クイズ屋、ギャンブル屋、射的、などなど。

この日だけの仮想通貨「あっそびー」を稼ぐため、それぞれが自分で考えた、個性爆発なお店が並んだ。

保護者の手助けは極力しないようにお願いしているので、本当にこどもたち主体で成り立っている。

 

加えて今年は、神社や交番、バス停、花屋、ポスト、信号機などが登場し、公園はこどもたちの「街」となった。

街のそこら中にこどもたちの小さなこだわりが散りばめられており、枠にはまらない彼らのぶっとんだ想像力には本当に驚かされる。

 

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子どもたちのアイデアで0から作られた神社!

 

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街中の神社で引いたおみくじ。センスしかない。



 

 

基本的に冒険遊び場には、こどもたちの遊びを支える専門職である「プレーリーダー」がいる。

彼らは普段、こどもたちと共に思いっきり遊んだり、どろんこやペンキまみれになったり、現場の安全管理を行ったり、一歩引いて見守ったり、地域や行政の人と環境調整を行ったり、今回のようにイベントを開催したりしている。

こどもたちにとっては、親や先生のようなタテの関係でもなく、友達のようなヨコの関係でもなく、利害関係のない「ナナメの関係」である。

 

このこども商店街においても、決してプレーリーダー側から過度に手伝うことはせず、こどもたちの「やりたい!」を一番近くで応援する存在だった。

 

僕は今回、学生プレーリーダーとして、準備段階から当日までこども商店街に関わった

その中で印象的な出来事があったので、ここに記しておきたいと思う。

 

 

 

僕は全体的にいろんな子と関わりながら、ある小学1年生の男の子にコミットしていた。普段からよく遊び場にきており、活発で物怖じしない性格の子だ。

 

彼はこのこども商店街で、習っているドラムを披露するためのステージを建築していた。

途中強風で建物が倒れかけたり、他の遊びに脱線したりもしながら、大人顔負けのトンカチ捌きでステージ作りに没頭していた。

 

彼はほぼ一人で建てていたので、お手伝いのアルバイトとして僕が駆り出されることもしばしばだった。

「ここ押さえてろ!」と不器用に言ってくるので、「そんな言い方するならやりませんぞ、社長。」と僕が言うと、「ここ押さえてろ〜!」と、言葉はそのまま優しい口調で言ってきたときは、腹を抱えて笑った。

実態としては、僕を散々働かせたあげく100あっそびーしかくれないブラックな雇用主だったのだが、こういう「しょうがねえなあ、もう」と許してしまうような愛嬌って、最強だよなあとつくづく思う。

 

 

そんな反面、普段は自信満々に見える彼にも大きな不安があるようだった。

ステージを作りながら、「お客さんきてくれるかな〜」と口にしたり、後からお母さんに聞いたところ、緊張して家で泣いていたりしたらしいのだ。

 

それもむりはない。こども商店街には、毎年数百人もの人が訪れ、ぼろ儲けをするお店もあれば、全然売れないお店もある。遊びの延長とはいえ、残酷な一面も持ち合わせているのだ。

それに加えて彼は今年が初参加であり、お店はドラムのステージなので本番に全てが懸かっている。

 

彼同様、僕もどきどきしながら本番を迎えた。

 

 

いよいよ当日の朝。

僕が会場に到着すると、彼は持参した手作りのドラムをステージにセットしていた。 

僕を見つけるやいなや、ダンボールで作ったマイクを僕にいきなり500あっそびーで売りつけ、「バイト代出すから歌って!」と言ってきた。いいだろう、望むところだ。やってやろうではないか。

 

彼は開演1分前に、「もう1分後に始まる!お客さん呼ばなきゃ!」と僕に呼び込みを丸投げしてきた。なんと横暴な雇用主。劣悪な職場環境。だが彼の「やりたい」をできる限りサポートするのが我の役目。やるしかない。

 

必死で大声を出して呼び込みをし、少しお客さんが集まったところで、ステージが開演した。

 

曲目は、「世界に一つだけの花」。

彼がドラムを叩き、僕が歌う。

誰もが知っているその曲に、だんだんと足を止める人が増え始めた。

最初はこわばっていた彼の顔も次第にほぐれ、明るくなっていく。

お客さんのほうからも歌声が聴こえてきた。手拍子をして盛り上げてくれるプレーリーダーの姿がある。

 

そして演奏がおわると、溢れんばかりの拍手とアンコールが沸き起こった。

 

アンコールももちろん、「世界に一つだけの花」。

2曲目を終える頃にはもう、彼は堂々と胸を張ってドラムを叩いていた。

 

それ以降、彼と僕は商店街を意気揚々と走り回って呼び込みをした。

そして彼は、歌い手を取っ替え引っ替えしながら、一日中同じ曲をステージで演奏し続けた。

僕は、できるだけ多くの人に彼の勇姿を見てもらうこと、ステージ上の彼がより輝くよう場を盛り上げることに徹した。

 

最終的に彼は、演奏後の投げ銭で47,100あっそびーを稼いだ。1年生の中では断トツ。すごい金額だ。

 

緊張で泣いていた彼はもう、そこにはいなかった。

 

 

 

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素敵 of 素敵

 

 

 

 

ステージを建築しているときの真剣な顔。

商店街をまわり、演奏の宣伝をするときのわくわくとどきどきの顔。

演奏中の、心から楽しそうにドラムを叩く顔。

観客からアンコールを浴びているときの、驚きと嬉しさの入り混じった顔。

もらった投げ銭を握りしめているときの、はちきれんばかりの笑顔。

最後のオークションで、自分で稼いだお金でサンゴを競り落としたときの、自信に満ち溢れた顔。

今日どうだった?と聞くと、「気持ちよかった!!」と答えたときの、誇らしげな顔。

 

 

僕は、彼のひとつひとつの表情を、この先ずっと忘れないだろう。

たかがこどもたちのお遊びだ、お遊戯会だ、とばかにする人もたくさんいるかもしれない。

誰もが子ども時代を経験しているのに、誰もが遊んで育ってきているのに、悲しいことに遊びの大切さを忘れてしまう大人がいる。

 

けれど、あの日あの場所では、間違いなく奇跡が起きていた。

彼が起こした奇跡を、僕は間近で、この目にしかと焼き付けた。

 

彼の紡ぐ音楽で人々の心が動き、人と人がつながって、そして彼の心が動いた。

彼の一歩踏み出した勇気が、挑戦が、多くの人に伝わり、認められ、報われた。

彼の「やりたい!」の気持ちを周りの人が支え、応援し、そして実現した。

 

決して彼一人では起こせなかったけれど、たしかに彼が起こした奇跡。

自分で掴み取った、大きな大きな自信の勲章。

 

 

僕がこの先も見たい奇跡は、きっとこれだ。

まだうまく言葉には言い表せないけれど、きっとこれだ。

 

年齢や学校、国籍、背景が違っても、

学校では「ちょっと変な子」として扱われてしまったとしても、

どんな人だって、自然体でいれる場所、まるっと受け入れる場所があること。

 

ひとりの人間の挑戦が応援されて、支えられて、たくさんの人の思いがつながって、みんなで大きくなっていくこと。評価するのではなく、失敗も許しあえること。

 

それぞれのやりたい気持ちを最大限尊重して、でもやりきれない部分もちゃんと認めて。その悔しい気持ちも糧になること。

 

そうやって、遊びを通してひとりひとりの中に、「僕はこれがすきだ」「私はこれができる」「自分はここにいていいんだ」という感覚が積み重なっていくこと。

 

自分の子どもじゃなくても、地域の大人がみんなで見守りながら、ゆるやかにあたたかくつながっていくこと。

 

これって、ものすごく奇跡的なのではないだろうか。

 

 

 

数年後、数十年後に幼き日を思い返すとき、彼はきっとこの日を思い出すのだろう。

いや、もしかするとまったく思い出さないのかもしれない。

どちらにしろ、彼がこの日感じた気持ちや乗り越えたものはかけがえのないもので、きっと彼の原体験として、大きな成功体験として、胸に深く刻まれただろう。

彼がこの先「やりたい!」と思ったことを実現しようとするときの、未知なるものに挑戦するときの、根拠のない自信にきっとつながっていくだろう。

 

 

 

「遊びなんてむだなことだ」「遊んでいるより勉強や習い事をしたほうが将来のためになる」なんて言葉が溢れるこの日本で。 

 

僕は、遊びの力を信じてみたい。

遊びを通してこどもたちが起こす奇跡を、もっともっとこの目で見たい。

 

 

しかしまだその奇跡的なものの数々は、ちゃんと世界に認識されていないように思う。

彼以外にも、あの日あの場所では数々の奇跡が起きていたに違いない。でも、遊びの力を信じていないと、それに気づくのは難しい。

 

もっと多くの人に、こどもたちが遊びを通して起こす小さな奇跡を知ってほしい。見過ごされがちだけど、ちゃんと目に留めてほしい。

 

だから僕は、その奇跡的なものたちを、世界にきちんと散りばめたいなと思う。

 

まだまだ冒険遊び場の知名度は低いし、開催するのも簡単ではない。

プレーリーダーという職業の存在も、プレーリーダーたちが持つ素敵な思いもなかなか知られていない。

 

一学生ができることは限られているし、おこがましいかもしれないけれど、僕なりに勉強して、行動していこうと思う。

 

人生において僕が見たい奇跡が、ぼんやりと、しかしはっきりと見えてきて、とても嬉しい。 

 

いつもお世話になっているあそびっこのみなさま、ありがとうございます。

陰で支えてくださっている地域の大人のみなさま、ありがとうございます。

今後とも、よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

さて、あなたが起こしたい奇跡は、何でしょうか。

あなたがあなたの人生で見たい景色は、何でしょうか。

こっそり僕に教えてくれたら、100あっそびーを差し上げますぞ。