三日坊主の三年日記

人生を、おもしろく

人の一生懸命を笑うな。

ぼくはいま、非常に憤っている。

とある駅ナカにある某ドーナツチェーン店にて、もちもちの輪を頬張りながら。

 

なぜなら、隣の女子大生(?)二人組が超うるさいからだ。ただうるさいだけならまだ許すが、こいつらがうるさいのには理由がある。

それは、この店にはちょっと変わった男性店員がいるからだ。

ここには、店内のレジとは別に、テイクアウト用のレジが店の外にある。彼はよく店外のレジに立っているのだが、その存在は一際目立っている。

彼は、ロボットダンスのような動きをしながら、巧みな駄洒落を用い、甲高い声でセールストークをしているのだ。駅ナカで、ひとりで。

 

その一風変わった彼の振る舞いを、女たちは店内から眺め、嘲笑っていた。

 

不愉快で不愉快で仕方ない。

なんなんだこの女たちは。というかこいつら何も買ってないくせに店内に居座っている。ごみくずか。

 

たしかに彼はユニークな動きをしているし、延々と、しかもほぼ毎日それを繰り返しているので「頭おかしいのでは?」と思う人もいるだろう。

 

でもぼくにはわかる。ぼくも彼と同じようにこの店にほぼ毎日出現しているのだから。

彼の存在に足を止める人は、非常に多いのだ。

「なんだなんだ?」と気になり立ち止まると、嘲笑して立ち去る人も大勢いるが、惹きつけられドーナツを買っていく人も同じくらいいる。はずだ。彼は、間違いなくこの店の売り上げに貢献している。

 

客がいない時間にぼーっとしているよりも、人通りが多い場所という利点を生かして目立つことによって買ってもらおうという試行錯誤の末の工夫なのかもしれない。暇な時間を楽しむための方法なのかもしれない。ちょっとした話題の人になりたいのかもしれない。

彼の素性は、ぼくにはわからない。

でも、「一生懸命」だということだけはわかる。いくら笑われようとも己の信念を貫き通し、売り上げに貢献する勇敢な男だということは、ぼくには痛いほど伝わっている。

 

そんなかっこいい人間を見下し、馬鹿にし、嘲笑う資格がおまえらのどこにある。

 

セカオワ風に言うと、物語の主人公はいつも「笑われる」ほうだ。

彼も、自分が主人公の人生を堂々と生きている。

一生懸命な人を笑う側の人間は、自分の人生の主人公にすらなれない。他人を笑っているうちに、人に笑われることを恐れ、自分は一生懸命になれなくなる。それがかっこ悪いことだと気づかずに、脇役のまま死んでいくのだ。

 

少なくともぼくは毎日、彼に勇気をもらっている。馬鹿にする人が多いことは事実だが、ぼくと同じように彼を密かに応援している人もいると信じている。

そしてぼく自身も、彼に負けないよう、自分の人生の主人公でありたい。

誰に笑われようとも、信念を貫き通していける強い主人公に。

 

 

女たちは結局、連れの男が現れると、三人で彼を笑いながら去っていった。

やるせない気持ちになり、ぼくも店を出る。

 

今度彼を見かけたら、店外でドーナツを買おう。ありがとうございますって、ちゃんと伝えよう。

彼が主人公の物語に、少しくらい脇役として参加してもいいだろう。かっこいい主人公の物語には、笑う者と支える者が必ず登場するように。

 

 

誰かの人生の中で主人公に力を添えながら、自らの人生を力強く創っていく主人公であれるよう、明日もミスドへ通う。